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大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)112号 判決

控訴人 杉本金属株式会社

右代表者代表取締役 杉本善治

右訴訟代理人弁護士 牧野彊

被控訴人 株式会社泉州銀行

右代表者代表取締役 佐々木勇蔵

右訴訟代理人弁護士 浜本丈夫

同 岸田功

右訴訟復代理人弁護士 粟津光世

被控訴人 日綿実業株式会社

右代表者代表取締役 神林正教

右訴訟代理人弁護士 福村武雄

右訴訟復代理人弁護士 中里栄治

被控訴人 安宅産業株式会社

右代表者代表取締役 市川政夫

右訴訟代理人弁護士 山本淳夫

同 上田耕三

同 片岡勝

右訴訟復代理人弁護士 小林紀一郎

被控訴人 野崎産業株式会社

右代表者代表取締役 宮坂義一

右訴訟代理人支配人 瀬端正雄

右訴訟代理人弁護士 宇佐美幹雄

同 宇佐美明夫

同 鶴田啓三

同 柴田定治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。大阪地方裁判所昭和四一年(ケ)第四七二号不動産競売申立事件につき、同裁判所が作成した原判決別紙二及び三の各代金交付表のうち被控訴人株式会社泉州銀行に対する各競売費用の配当分を除くその余の部分を取消し、控訴人に対し競売費用に次ぐ配当順位で配当すべくこれを更正する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らはいずれも主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠関係は、次に附加する外、原判決事実摘示と同一(但し、原判決別紙三の標題を「代金交付表」と改める)であるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

一、被控訴人らが本件土地建物と共に共同抵当の目的とした訴外土屋快蔵所有の千葉の山林の根抵当権の順位及び設定登記のなされた日は次の通りである。

順位 登記日 根抵当権者

(1)  昭和三八年一一月二五日 株式会社三和銀行

(2)  同右      日綿実業株式会社

(3)  昭和三九年八月二九日  株式会社泉州銀行

(4)  同年一二月一五日 安宅産業株式会社

(4)  同右      野崎産業株式会社

(5)  昭和四〇年三月二三日  株式会社泉州銀行

右各根抵当権のうち(2)の根抵当権は昭和三九年八月二九日(3)の根抵当権に順位を譲渡してその旨の附記登記をなし、また(2)の根抵当権の被担保債権の元本極度額五、〇〇〇万円のうち金二、〇〇〇万円については昭和四〇年三月二三日(5)の根抵当権のために順位を放棄してその旨の附記登記をしている。

二、実定法上、抵当権相互間の優劣は登記の先後によって定められるものであるところ、控訴人は訴外土屋から譲受けた本件土地建物に対する一番抵当権につき権利移転の附記登記を得ているのであって、被控訴人らが右物件に対する後順位の抵当権による代位を以てこれに対抗しようとするのであれば、民法第三〇四条に従って右一番抵当権について差押登記をするか、あるいは後順位抵当権と一番抵当権との順位を変更する更正登記または順位変更の登記をなすべきであって、被控訴人らがかかる手続を怠った以上、附記登記を得た控訴人の一番抵当権が優先することによる不利益は、被控訴人らにおいてこれを甘受すべきである。

(被控訴人らの答弁)

控訴人主張の一、の事実は認める。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、次の事実はいずれも当事者間に争いがない。

(一)  被控訴人泉州銀行(以下被控訴人らについていずれも「株式会社」を省略する)は、訴外サントハムを債務者として同会社所有の本件土地建物に設定していた根抵当権に基いて、昭和四一年一〇月大阪地方裁判所に任意競売の申立をし、右事件は同裁判所昭和四一年(ケ)第四七二号不動産競売申立事件として同裁判所に係属した。同裁判所は右事件につき同年一一月一六日不動産競売手続開始決定をし、昭和四五年二月二七日の競売期日に右各物件を競売して同年三月六日最高価競買人に競落許可決定を言渡し、その後右決定は確定して競落人から競落代金が納付された。

(二)  ところで、訴外サントハム及び訴外土屋快蔵は、同会社の債務を担保するため、同会社所有の本件土地建物と右土屋所有の千葉の山林とを共同抵当の目的として、訴外三和銀行及び被控訴人らに対しそれぞれ根抵当権を設定していたが、その順位及び設定登記の日は次の通りである。

順位 登記日 根抵当権者

(本件土地につき)

(1) 昭和三八年一一月二〇日 株式会社三和銀行

(2) 昭和三九年八月二七日  被控訴人泉州銀行

(3) 同年一一月二〇日 被控訴人安宅産業

(3) 同右      被控訴人野崎産業

(4) 昭和四〇年三月二五日  被控訴人泉州銀行

(本件建物につき)

(1) 昭和三八年一一月二〇日 株式会社三和銀行

(2) 同右      被控訴人日綿実業

(3) 昭和三九年八月二七日  被控訴人泉州銀行

(4) 同年一一月二〇日 被控訴人安宅産業

(4) 同右      被控訴人野崎産業

(5) 昭和四〇年三月二五日  被控訴人泉州銀行

(千葉の山林につき)

(1) 昭和三八年一一月二五日 株式会社三和銀行

(2) 同右      被控訴人日綿実業

(3) 昭和三九年八月二九日  被控訴人泉州銀行

(4) 同年一二月一五日 被控訴人安宅産業

(4) 同右      被控訴人野崎産業

(5) 昭和四〇年三月二三日  被控訴人泉州銀行

そして、本件建物に対する順位(2)の根抵当権は昭和三九年八月二七日、千葉の山林に対する順位(2)の根抵当権は同月二九日、それぞれ順位(3)の根抵当権に順位を譲渡してその旨の附記登記をし、また本件建物及び千葉の山林に対する右順位(2)の根抵当権の被担保債権の元本極度額五、〇〇〇万円のうち金二、〇〇〇万円についてはいずれも順位(5)の根抵当権のために順位を放棄して、右建物については昭和四〇年三月二五日、右山林については同月二三日その旨の附記登記がなされている。

(三)  昭和四一年七月右共同抵当物件のうち千葉の山林のみが被控訴人泉州銀行の任意競売の申立により千葉地方裁判所松戸支部昭和四一年(ケ)第二五号事件において競売に付され、同年一二月五日その競落代金をもって、訴外株式会社三和銀行(以下「訴外銀行」という)は訴外サントハムに対する債権元利合計金三、四二二万四、六三二円の弁済を受け、被控訴人泉州銀行も第二順位の抵当権者として訴外サントハムに対する債権の一部の弁済を受けた。

(四)  その結果、訴外土屋は訴外サントハムに対し右弁済額と同額の求償権を取得すると共に、訴外銀行の本件土地建物に対する前記第一順位の根抵当権をも取得するに至ったので、昭和四一年一二月二一日右根抵当権移転の附記登記をした。

控訴人は、昭和四一年一二月二〇日訴外土屋から訴外サントハムに対する右金三、四二二万四、六三二円の求償権及び右根抵当権の譲渡を受け、同月二一日右根抵当権移転の附記登記をした後、昭和四三年二月八日右求償権の内金一、一五六万一、〇八〇円を被控訴人安宅産業に、内金七七〇万七、三八八円を被控訴人野崎産業にそれぞれ譲渡したが、なお残金一、四九五万六、一六四円の求償権を有している。

(五)  一方、大阪地方裁判所は(一)記載のように本件土地建物の競落代金の納付をみた後、右土地及び建物について各債権者の有する各債権に対する配当順位及び配当額を定めて、原判決別紙二及び三の各代金交付表を作成した。控訴人は、昭和四五年一〇月二日の代金交付期日に右各代金交付表の被控訴人泉州銀行に対する競売費用の配当の次に、控訴人が順位一番の根抵当権者として前記金一、四九五万六、一六四円の債権について配当を受けるべき地位にあるものとして異議を述べたが、被控訴人らはこれを認めなかった。

二、以上の事実によると、先ず、訴外サントハムの物上保証人であった訴外土屋が、共同抵当の目的物の一部である同人所有の千葉の山林の競売代金で順位一番の根抵当権者である訴外銀行に弁済をしたことによって、訴外サントハムに対しその弁済額と同額の求償権を取得し、同時に民法第五〇〇条、第五〇一条に基き右求償権の範囲において右銀行に代位して共同抵当の他の目的物である本件土地建物に対する右第一順位の根抵当権を取得したことは明らかである。

被控訴人日綿実業は、訴外土屋は訴外銀行のため千葉の山林と本件土地建物とを共同抵当の目的とする第一順位の前記根抵当権を設定した後、同じく訴外サントハムの債権者である被控訴人日綿実業に対し右山林と本件建物とを共同抵当の目的とする根抵当権を設定したのであるから、たとえ訴外土屋が前記弁済により訴外サントハムに対して求償権及び本件建物に対する第一順位の根抵当権を取得したとしても、自己の設定した後順位の根抵当権者である右被控訴人に対する関係においては、右求償権及び根抵当権を放棄したものと考えるべきであると主張するけれども、物上保証人が弁済によって法律上当然に取得する右求償権及び根抵当権について、他に特段の事情も認められないのに、自ら後順位の共同抵当権を設定したことのみを理由として、これを放棄したものと推認することは困難であるから、右主張は採用できない。

三、ところで、本件においては、いずれも訴外サントハムに対する債権の担保として、被控訴人泉州銀行、同安宅産業及び同野崎産業は本件土地建物及び千葉の山林を共同抵当の目的とする第二順位以下の根抵当権を有し、被控訴人日綿実業は本件建物と千葉の山林とを共同抵当の目的とする後順位の根抵当権を有するのであるが、このように、債務者所有の物件と物上保証人所有の物件とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定された場合に、先ず物上保証人所有の物件が競売に付されて一番抵当権を有する債権者に弁済がなされ、これによって物上保証人が債務者に対する求償権を取得すると共に右債権者に代位して債務者所有の物件に対する一番抵当権を取得したときの法律関係については、直接これを律すべき民法の規定は存在しない。しかし、右の場合、後順位抵当権者は共同抵当の目的物のうち債務者所有の物件の担保価値ばかりでなく、物上保証人所有の物件の担保価値をもあわせて把握し得るものとして抵当権の設定を受けているのであり、一方、物上保証人においても自らの所有物件の上に設定した後順位抵当権による負担ないし損失は当初からこれを甘受することを予期していたものというべきであって、共同抵当の目的物のうち先ず債務者所有の物件が競売され、あるいは共同抵当の目的物全部が一括して競売に付された場合には、後順位抵当権者が物上保証人の求償ないし代位の関係を顧慮することなく、債権の満足を図り得ることとの均衡を考えても、前記の場合に、自己所有の物件が先に競売に付されたという偶然の事情によって、物上保証人が右負担ないし損失を免れるとするのは、極めて不合理である。しかも、民法第三九二条第二項は、共同抵当の目的物を一括して競売に付するか、その一部にとどめるか、またそのうちのいずれの物件を競売するかを抵当権者の選択に委ねる反面、共同抵当の目的物の一部が競売に付されたときは、その物件上の後順位の抵当権者が残余の物件については抵当権を有しない場合においてすら、競売によって弁済を得た共同抵当権者に代位して残余の物件に対する抵当権を行使させることにより、目的物を失った後順位抵当権者の保護を図っているのであって、右条項の趣旨と民法第三七二条、第三〇四条第一項が抵当不動産の滅失または毀損によって債務者の取得すべき金銭その他の物の上にも抵当権の効力が及ぶものとしている趣旨とをあわせて推及すれば、前記の場合においては、一番抵当権自体は物上保証人に帰属し、第二順位以下の抵当権者に移転するものではないけれども、物上保証人の取得した右一番抵当権が第二順位以下の抵当権者の債権を担保するものとなり、後順位抵当権者らは物上保証人に優先してそれぞれの順位に従い右一番抵当権の上に代位するものと解するのが相当である。

従って、本件においても、後順位の共同抵当権者である被控訴人らはその順位に従い物上保証人である訴外土屋に優先して、同人が代位弁済によって取得した前記一番抵当権に代位し得ることになるから、訴外土屋は本件土地建物の競売代金について被控訴人らに対し右一番抵当権による優先弁済を主張し得ないものとしなければならない。

四、そして、右の如く訴外土屋の本件土地建物に対する一番抵当権が後順位抵当権者である被控訴人の代位を受けるものであるとすれば、右土屋からこれを譲受けた控訴人においても訴外土屋の承継人として右代位による負担を免れることができないものというべきである。

控訴人は訴外土屋は前記代位弁済による一番抵当権の取得につきその旨の附記登記をなし、同人からこれを譲受けた控訴人においても権利移転の附記登記を受けているのであるから、被控訴人らがこれに対抗しようとするならば、民法第三〇四条により右一番抵当権の差押登記をするか、被控訴人らの後順位抵当権を右一番抵当権に優先させるための更正登記または順位変更の登記を要するのであって、かかる登記のない被控訴人らの前記代位はこれを以て控訴人の右一番抵当権に対抗することができないと主張する。しかし、後順位の抵当権者が物上保証人の取得した一番抵当権の上になす前記代位は、当事者の意思如何に拘らず法律上当然に生ずるものであるのみならず、右代位を生ずることを第三者が知り得べき事項はことごとく登記簿に公示されている(本件についていえば、本件土地及び本件建物の各登記簿上に、前記一番抵当権が本件土地建物と千葉の山林とを目的とする共同抵当であること、これに続いて目的物を同じくする前記各後順位の共同抵当権が存在すること、右一番抵当権の実行によって千葉の山林が既に競売されていること及び右一番抵当権は右代位弁済によって物上保証人である訴外土屋に帰属したものであること等が明らかである)のであって、これに加えて他の公示方法を必要とする理由も見当らないから、右代位は何らの公示方法なくして一番抵当権の譲受人に対抗し得るものと解するのが相当である。控訴人は、右登記簿の記載によって前記一番抵当権に代位の生じていることを当然予知すべきものであって、敢てこれを譲受けたとしても、右代位による制約の付着した、すなわち代位の生ずる時点における後順位抵当権者の債権を弁済した余剰の担保価値だけしか把握できない抵当権を承継したに過ぎず、前記代位によって生じた法律関係は、控訴人の右一番抵当権の譲受によって何らの影響をも受けるものではない。なお、民法第三七二条によって準用される同法第三〇四条第一項は、抵当不動産に代る金銭その他の物についての代位に関する規定であって、これを本件に直接適用することができないことはいうまでもなく、その趣旨を類推するとしても、同条が差押を代位の要件とするのは代位の目的物を特定して維持することによりこれが債務者の一般財産に混入することを防ぎ、右一般財産に期待する債権者その他の第三者を保護するためであると解されるところ、本件の如き場合には登記簿の記載によって第三者が一番抵当権により優先弁済を受け得ないことを予知し得ること前述の通りであって、第三者に不測の損害を与えまいとする民法第三〇四条の目的は登記によって達せられているのである。また、控訴人主張の更正登記ないし順位変更の登記は、代位者にかかる登記請求権を認める実定法上の根拠はなく、法律上当然に生ずる代位についてかかる登記を要求する実質的な理由も存在しないから、控訴人の前記主張はとうてい採用することができない。

五、してみれば、本件土地建物の前記競売代金について控訴人が被控訴人らに優先して弁済を受けるべきであるとする控訴人の主張は理由がなく、また弁論の全趣旨によれば、本件土地建物の各競売代金額並びに被控訴人らの訴外サントハムに対する前記一、(二)記載の各抵当権の被担保債権額は原判決別紙二及び三の各代金交付表記載の通りであると認められるところ、右競売代金を各抵当権の順位に従いかつ債権額に応じて配当すると剰余を生ずる余地のないことは明らかであるから、右各代金交付表の更正を求める控訴人の請求は失当であって棄却を免れない。

従って、これと結論を同じくする原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 鈴木敏夫 判事 三好徳郎 中川臣朗)

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